春の匂い

このあいだの文章を書いて、さあ寝ようと薬を口に放り込んでから布団をかぶったら父親の具合が悪くなり、病院へ連れて行くことになった。父親が入院して一番被害を被るのはうちの犬だ。いつもご主人と仰いでいつも行動を共にしている人がいないというのは犬にとってはずいぶんと辛いものらしい。僕も、これでも努力しているつもりで、午前と午後、長めに外へと連れ出してはいるけれど、ふとした瞬間にえらく外を警戒するような唸り声を出したり、いかにも父親がいないのをおかしいと言っているかのように甲高い声をあげてみたりする。
うちが危なっかしいながらもなんとかここまでこれたのは、犬がいた為だと思う。前に飼っていた犬がいなくなった後、もう犬は飼わないでおこうと親は決めていたらしい。でも僕はやっぱり犬はうちには不可欠な存在だと思っていて、人から見たら高齢な親とその息子だけの家に子犬を迎えるのは不自然に思えた(十分な世話をできるかどうかわからないから。)のかも知れないけれど、自分が飼うのだからといって犬を迎えた。すると思い通りに犬は父親にすぐになついていつも行動を共にするようになった。「ああ、これで思い通りになった」と思った。犬も父を頼るけれども、何より父親が犬を世話することに生きがいを見出すだろうと思ったから。
今日も朝にしばらく犬と歩き、午後は公園へスマホのカメラを試しがてら出かけた。

失敗だったのは、失敗というとかわいそうだけれど、犬の散歩を兼ねての撮影というのは不便なところがある。リードを、いくらバッグにくくりつけたりしても、犬は犬でじっとしていたくないからそれを引っ張ろうとするし、こちらはスマホで写真を撮ろうというのに、動かれては困る。幸いというか、誰も来る様子もなかったからじっくり撮りたいときにはリードは離している時もあった。すると犬は勝手にそこらを駆けている様子もあった。
honor6Plusのカメラはちょっと変わっている。メインとなるレンズが二つあって、それを利用して写真に奥行き感を出しやすいようになっている。「ワイドアパチャー」というモードにしておくと、後から焦点の当たっている部分を変えるという「裏技」も使える。これはソフトウェア上で操作しているわけではなくてレンズが二眼あるからこそできる技で、なかなか画期的なんじゃないかなと思う。
春の匂い03
あんまりカメラに集中して犬を放っておくわけにもいかないので、下の方を流れている川辺まで降りて、追いかけっこをした。犬は水が好きで、温む時期になると勝手に川に入っていったりする。さすがに今の時期、それはしない。
春の匂い04
これもワイドアパチャーを有効にして撮ったもの。べたっと全体が写るのではなくて奥行き感が出ているのを後でパソコンで確認したらわかり、それを好ましく思ったもの。
本来なら背景のぼけている部分もくっきりと写るのがスマホカメラのような小さなセンサーのいいところでもあり、場合によっては惜しいと感じるところでもあるけれど、このスマホであればその両方の写真を撮ることができる。
毎度!考えてしまうのだけれど、父親が退院してきたら毎日の食事をどうしたらいいのかと悩む。以前、母親が血糖値の調整のためにしばらく入院した後、自分たちではきちんと栄養を調整したものを作るなんてことができないので、早まって一ヶ月分のそれ用のお弁当を頼んだことがある。すると母親は最初数食それを食べただけで、残りは長い時間をかけて時々全員で小分けにして食べたりしてしまっていた。確かに冷凍のお弁当は独特の匂いが、僕でも嫌なものだった。
もう一つ困ったなと思うのは、父親は今回最初から「せん妄」がひどいこと。自分が入っている病院もわからなかったり、夜中、自分でも気がつかないうちに僕に電話をかけてくることもある。他の人にそれをしていたら迷惑なのでそのことを指摘しても本人に記憶がなかったりする。だからといって電話を取り上げるのは結果として悪いことになるのは今までも経験している。なぜならそれが唯一、閉ざされた病棟空間と外界とをつなぐ「糸」になっているんだから、今は。特に今回は、暇な時間ができると夕方まで人と一緒に相撲を見るというようなことができないので、父親にとっては辛いことには違いないだろうと思う。
春の匂い07
帰ってきたら、多分これまでよりも気を遣い、これまでよりも親のことで疲れるんだろうなと思う。
でもそういう風になっているのなら、それは仕方がない。

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