橋下市長の「慰安婦」発言を考える 2


この間、この大層なタイトルを付けて文章を書こうとしていたら、その前にやられた胃腸に来る風邪のために途中でエネルギーが尽きてしまった。風邪の気配は薄れたけれどもまだ不審に思う部分もあるし一応風邪薬や整腸剤は飲んでいる。何より体力が落ちてきておまけになぜか腰が痛くなっている。これはたぶん寝ている時間が長いからかなと思う。本当に長く寝ている。寝ている時間の方が多い。食欲は、熱が冷め出したらすぐ回復してきたのに、どうしてかまだ米を食べる気がしない。それでカップ麺とかパンを食べている。あと、野菜ジュースはほぼ毎日飲んでいる。これを飲み出してから、以前から悪かった肝臓の数値がかなり改善した。別に数値のために飲んでいるわけではないけれど、野菜をとることが全般に少ないし、小腹が空いた時に何か食べるより先に野菜ジュースを飲むとそれで収まることも多い。
ところで橋下さんの発言について書くんだった。自分の考えを先に書くと、「道義のない戦争(侵略)のために武器をもてば、どんな人間でも人を奴隷的に扱って平気な精神状態に置かれる」ということ、だ。だからこそ「慰安所」は各地に作られたし、戦闘中のごうかんも多発した。そして、そんな異常環境の下では、そのエネルギーを「発散」する正当な手段など他には存在しないということ。これをまず書いておいて、橋下氏が嫌う発言の「一部抜粋」をここでやると、

「そりゃそうですよ、あれだけ銃弾の雨嵐のごとく飛び交う中で、命かけてそこを走っていくときに、そりゃ精神的に高ぶっている集団、やっぱりどこかで休息じゃないけども、そういうことをさせてあげようと思ったら、慰安婦制度ってのは必要だということは誰だってわかるわけです。ただそこで、日本国が欧米諸国でどういう風に見られてるかというと、これはやっぱりね、韓国とかいろんなところの宣伝効果があって、レイプ国家だって見られてしまっているところ。ここが一番問題だからそこはやっぱり違うんだったら違うと。」

という部分にどうしても注目してしまうし、彼としてはこの前段に、

「しかし、なぜ、日本の従軍慰安婦問題だけが世界的に取り上げられるかというと、その当時、慰安婦制度っていうのは世界各国の軍は持っていたんですよ。これはね、いいこととは言いませんけど、当時はそういうもんだったんです。ところが、なぜ欧米の方で、日本のいわゆる慰安婦問題だけが取り上げられたかというと、日本はレイプ国家だと。無理矢理国を挙げてね、強制的に意に反して慰安婦を拉致してですね、そういう職に職業に付かせたと。レイプ国家だというところで世界は非難してるんだっていうところを、もっと日本人は世界にどういう風に見られているか認識しなければいけないんです。慰安婦制度が無かったとはいいませんし、軍が管理していたことも間違いないです。」

こうなると、彼が「問題」だと考えているのは「慰安婦的な存在は当時侵略行為をしていた各国にもあったのに、日本だけがそれを国として強制的に徴発したと言われている。それが解せない」ということになるんじゃないかと思う。(なにしろ、発言そのものを大切にしろと言いながら、その後その発言が微妙に、あるいは正反対に変わって行ったりするのがこの方の特徴だと僕はこれまで思っているのでここでは文面通りそう解釈しておく。)そしてその理由のひとつとして「韓国とかいろんなところの宣伝効果」があったからだとする。

ここで疑問に思うのは、日本だけがこの性奴隷制度について非難されてきたのだろうか?ということと、もしそうだとして、「それはおかしいじゃないか。他国にもあったじゃないか」という声を今あげる必要が、特にあるんだろうかということ。それによって日本軍が過去にそうした仕組みを作っていたことの「やむを得なさ」が証明されるんだろうか。彼の真意としては「帝国主義時代の人権意識の限界」として慰安婦制度を留め置きたいということなのかも知れないが、この制度の犠牲となった方々は現存されているし、制度の大元となった侵略戦争を否定する言動が日本の政治家の口から出る度に、この方々もまた深く傷ついている。自分たちだけは「侵略の定義が学術的に定まっていない」などと逃げ道をこしらえておいて(この「定義」も、一応当然ながら定められているらしい。)、犠牲になった方々について、その犠牲をなるべく「その時代のせい」にしようとしている点で、大変犯罪的な発言だと思う。また韓国がことさら取り上げられるのは、かって「併合」した経緯のあるこの国からの抗議の声が、当事者やその支援団体から今も噴出しており、それを政府も容認し応援しているからだけれども、この点について橋下氏自身は、韓国政府は日本の慰安婦制度を世界に曲解させてきた、と理解している様子がわかる。慰安婦について同情的な一面も見せつつ、実はそれは「見せかけ」ではないかという疑問を強く持つ部分だ。
ところで、彼が発言の核としている強制性の問題については次のサイトが大変参考になる。
http://d.hatena.ne.jp/dj19/touch/20121213/p1
ここには、当時、誰もが「慰安婦」になるなどと聞かされないまま、騙されてそうさせられた例が当事者の口述資料を元に複数紹介されている。まさに意図して、騙して、慰安所に連れて来られ、そこで奴隷となることを強制された事例が具体的に記録されている。ここには彼が会見中に自身の発言の補完役として登場させた秦郁彦氏の著作からの引用も含まれている。
もうひとつ、沖縄の駐留米軍が子供や女性に暴行を加える理由は、まさに米軍が沖縄にいる「道義」がないからだ、と思う。
アメリカ合衆国は世界でも突出した軍事力を背景に地球的規模で軍を展開している。それは、アメリカが「世界の警察」だから、ではなくて、最大の産業が軍事(それを支える金融、IT企業、研究施設なども含めて。)だからということに尽きる。兵器も時々大規模な「消却」を行って更新する必要があるから、かっては「東西冷戦」という名目で各地で代理戦争を起こさせてはそこに武器と人員を供給していたし、大陸間弾道弾や軍事衛星の整備も、人類を何度も滅ぼすのに足りる程作られた。ソビエト連邦がなくなってから、突然「テロとの戦い」が軍備を整える名目になって、本来なら必要なくなった筈の沖縄の基地群もそのまま存続させられている。(もともと必要なかったけれども、今ならそれこそ最低グアム島まで引くのが筋。しかし他の「同盟」国と違い日本政府が駐留費用を大幅に負担してくれるのでそこにいるだけ。)
先のアジアの侵略で、国共合作を果たした中国軍をはじめ各地の民衆の息の長いゲリラ戦に追いつめられ、「太平洋戦争」でも日本軍が大きく消耗していく過程で、沖縄では日本で唯一地上戦が行われ、一線に立って戦うべき軍人が民間人を盾につかったこともあり、非常に多くの犠牲者を出した。この時、今その移設が問題になっている普天間基地が町中に急遽作られた。沖縄は、県土に占める米軍基地の割合が90年代後半でも全体で1割強もあり、部分的に見て行くと嘉手納町では8割、金武町(きんちょう)では6割などと途方もない面積を基地が占有している。そしてこれらの基地は「一応」日本を他国の侵略から護るために存在することになっている。けれども実際は、朝鮮戦争やベトナム戦争、湾岸戦争やアフガニスタン・イラク戦争の兵站として使われてきている。いずれもアメリカ本土から遠く離れた戦場で、そこに沖縄に駐留している米軍人も派兵されていく。
いったい、沖縄にいる兵隊たちが、「テロとの戦い」だからと言われてわざわざ中東まで命がけで行くことに意味を見いだせるものだろうか。たとえばアメリカ本土にいて、そこに他国の軍隊が攻め入って来るならば、彼らもその戦いに意義を見いだせるだろうと思う。自分たちに何の非もないのに、家族や友人が住む土地へよそから踏み込まれたら、彼らだって正義感が働きそれに対抗しようとするだろう。それは正当防衛にあたる。けれども故郷とは太平洋を隔てた沖縄から、「テロとの戦い」のために、なんで自分たちが中東くんだりまで派兵されなければいけないのか。いや、そもそもそんな意識さえ彼らの中では働かないんじゃないだろうかとさえ思う。軍にいればお金が入って来るし、住宅も、沖縄ならば日本政府からの「おもいやり予算」で出来た邸宅が手に入る。広大な基地内にはアメリカ本土並みの規模で学校や公園、各種娯楽施設が備えられている。
一方、基地外へ出れば、そこには旧来の沖縄の、日本国に統治されている現状がそのまま存在している。橋下氏によれば「猛者」である沖縄の海兵隊員たちにとって、休息場所は、本来彼らの為に用意された基地内で足りているはずなのにわざわざ基地の外に出て来るのは、単に軍に拘束されない時間や空間が欲しいということと、それから恐らく、橋下氏が言うまでもなく、そこに「風俗業」があり、既によくそれを彼らが「活用」しているからでもあると、僕は想像している。活用しているにも関わらず事件が定期的に起きるのは、最初に書いたように、彼らが沖縄にいることに道義がないこと。兵士たち自身がそれを感じられないことに尽きると思う。
橋下氏の問題点は、「戦争」といえば侵略戦争でも防衛戦争でもいっしょくたにしてしまうことだと思う。彼は今回問題になった会見でしきりに「負けたわけだから」「負けるような戦争をしてはいけない」という言葉を発しているけれど、たとえば日本に無理難題を押し付けられたあげくに侵略を受けたかっての中国の立場に立ってみれば、その戦争は家族や故郷を護るためのやむを得ない戦争で、防衛戦争だった。翻って日本が行ったのは他人の土地や資源を奪うことを目的にした侵略戦争だった。ここのところの区分けを、彼は故意か知らないからなのかわからないけれども、していない。ではもし大日本帝国が勝っていたら、「慰安婦」問題にしても朝鮮人強制連行(これについても彼ならおそらくその「強制性」のみを問題にするだろう。)にしても、彼にとっては頭の端にものぼらないものとなっていた可能性が大いにある。
もうひとつの彼の問題点は、男性の「慰安」をすべて「女性性」に求めていることだ。後に出演した報道番組の中で、沖縄の米軍高官に兵士のストレス発散の方策として何をしているかを尋ねたところ、「バーベキューやボーリングだ」と答えられたことに彼は大変あきれた風だった。彼にとってはストレスのはけ口は必ず女性、しかも性のみを求めることでしかないのだろうか。先に紹介したサイトでは、当時、慰安所に入ってもそのような行為を相手に求めずただ彼女らの話を聞いているだけの兵士もいる。この兵士にとってはむしろ自分がそのような行為をすることに抵抗を感じていたということであって、それは普通の感覚の男性ならよくわかる行動だ。けれども橋下氏の想定下にそうした男性は入ってはいないようだ。バーベキュー、ボーリング・・・普通の感覚ならそれらはストレスを解消するためのエネルギー発散の機会に十分なる。
繰り返しになるけれども、侵略戦争は、ともかくそれが欲しいから相手の土地であろうが人であろうが容赦なく奪うというもので、人として戦うための「道義」がない。そんな状況下で命を奪われるかも知れないとなったら、たとえばそれが日本国内では普通の温厚な青年であったとしても、中国式に表現すれば「日本鬼子(リーベンクイズ)」となる。ヤケクソ状態になり、殺害やごうかんも「楽しみ」と感じてしまうような存在になってしまう。そこで現在の憲法はそれをこの島々の人間に二度と起こさせないために、多国間との問題を武力で解決するという方策を固く禁じている。橋下氏が石原氏と共同で代表をしている党は、その憲法の改定を現政権とともに大きな目的のひとつに掲げている。実際には既に現在の憲法は事実上改定されつつある。自衛のための軍隊であるはずの自衛隊を、つい最近も「特別措置法」を都度作ることにより遠くイラクまで派遣したり、インド洋上に補給艦を派遣して合衆国の作戦支援をしたりした。ただ、現憲法を破っている負い目はあったので、イラクでは民生支援のみに任務を限ったし、燃料供給も直接に合衆国軍の艦船にはしないことにしていた。
けれど市民の多くが(特にネット上の若い人にも多い。)かってのこの国の侵略の実態を知ろうとすることもなくなり、まして他国のそれを学ぼうという意識さえ薄れれば、今後本当に現憲法の侵略戦争防止に関する事項は改悪され、道義のない侵略の道へと、他国(アメリカ合衆国の可能性が最も高い)とともに、この島々とは遠く離れた地で、殺害し、奪い、ごうかんもするという事態が生まれる可能性は大いに出て来た。