寒すぎるお店

うちはどうしてか両親が外向きにサービス精神旺盛だった。それはお菓子屋やうどん屋をやっていたこともあったろうし、元々僕とは違って二人とも器用なので、それをどこかで「披露」したい気持ちがあったのかも知れない。中学校に上がる頃、今の家を建ててくれたが、大きな出窓を正面と側面に合わせて四つも付けてどれにも照明(電球)を入れ、父親は若い頃から趣味にしていた陶芸の作品を置いたり、母親は花器に花を生けたりして、夜にそれらを「ライトアップ」しては道行く人たちに見せていた。と、そのことはすぐ前にも書いた。ところがその窓に物を入れたりしまったりするのに普通の障子戸を付けたものだから、南向きのそれらの障子戸の紙はすぐ劣化して破れるし、戸自体も、強い日差しで歪みが出来て開け閉めがうまくいかないようになることが何度もあった。
今また例年のとおり作業を依頼して頂いていて、夏のそれは春のものよりはまだ楽なはずなのだけれど、体力が落ちているのをよく感じるので昼間の仕事がなくてもとりかかるのに気が重くしんどい。時間があるからいいようなものの、これでもし昼間、他に時間と体力をとられることでもあれば、今の状態だったらもしかするとお断りしなければいけなかったかも知れなかったと思うくらい。おとついに、最初に見て頂く日が決まったので、さて、その夜からかかろうとするものの全然気が進まなかった。

それより前、お昼の間に、隣に面している出窓の(うちが建ってから隣の家が建ったのでそういうことになった。)障子紙がひどくめくれているのに気がついて気になっていたので、夜の作業をほっぽらかしてまずそれを貼り直すことにした。どうしてそんな不要不急のエネルギーは出てくるのだろう。というよりは、気になることがあると眼前のやらなければいけないことより先にそちらからどうしても片付けてしまいたくなる。
水ノリもあり、小さな刷毛もあり、観葉植物用の霧吹きもあるので元の紙は簡単にはがれ、さて新しい紙を貼ろうと思ったら、よく拭いたつもりでも汚れが紙に浮き上がってきて見栄えがよくない。これは水気があるうちはだめなんだろうと思い、一晩戸を乾かしてゆうべ再度挑戦したら今度は汚れの浮きはマシに思えたのに、紙が足りないことに貼っている途中で気が付いた。他の窓にはガラス戸と障子戸との間に簡易なレースのカーテンを突っ張り棒で吊るしてはいるけれども、隣に面した窓にはそれがないから臨時で他の窓の障子戸を取り付けておくことにした。これもまた陽の当たり方で様々に歪んでいるので「その窓のその戸」しか入らない場合もあるのだけれど、今回はなんとか入れる事が出来た。
そして、部屋で育っている(育てているというよりは、水をやっているだけで勝手にどんどん伸びている)ポトスとパキラの伸び過ぎたところを大胆に剪定?して場所を変え、昔読んでいた文庫本を整理しようとして途中で床に散らかしていたのをどけて、やや広く、スッキリした床にモップと掃除機をかけた。それでようやく依頼していただいた作業にどうしてもかからないといけないと思うようになり、昨夜は0時頃から朝の9時頃までかけてなんとか形をつけた。改めて見てみたらもう少し修正した方がいい部分もあるし、もっと整えたい部分もあるのだけれど、それは今日早く起きれたらやることにして午前中に寝てしまい、次に目を覚ましたのは午後3時半くらいだった。

こもっていると正気が保てなくなってくる。もちろん!外で日々ストレスに出会う生活を続けていると、もっとそれを保てないのだけれど、こもることは苦しい。このことは、ずっと以前、10代の後半から既にわかっているはずなのに、どうしても4、5年ごとにこれを繰り返す。そして今回のこれは、かなり切羽詰まっている。親も年を重ね、医療や介護に頼る度合いが増え、動作や言葉にも不便な面が目立つようになった。そして何より自分自身の体力や気力が、若い頃のそれとははっきり衰えていると感じるようになってきている。
どこかの国では、無業で何もすることがなくても、そうした人のためのたまり場や気軽なボランティアの機会やらがたくさんあって、こもっている場合ではないぐらい納得のいく時間の過ごし方ができるそうだ。日本は、特に男であれば昼間「ぶらぶら」していると不審に思う人が多い印象を、特にまだ昔のムラ社会的なこのあたりで過ごしているとよく感じる。家の中でいくら食器洗いや掃除や洗濯をしていても、それはあまり「意味」をもたない。「家事手伝い」という項目は男にはなく、けれども同居者ができれば「主夫」という位置はようやく認知されるようになってきた。それでもまだ中途半端なイメージでそれは受け止められるている感じがするけれども。
日本の街はどこにもマクドナルドやスターバックスといった「グローバリズムの象徴」的店舗が浸透してきて、これを「どこへ行っても同じ風景」となげく人もいそうだけれど、そうした「ムラ社会といっとき離れられる場」が身近にあるのは僕にはありがたい。そして今日はそのマクドナルドで作業の足りないところをやって、今晩あと少しやればなんとか明日以降、見て頂けそうなものが出来て来た。ただしマクドナルドの欠点は、一番安いものを選んでもやはりお金がかかることと、あまり長居すると、わざとなのか、作業をする店員の体温に合わせているのか知らないけれども、エアコンの効きが強すぎる。寒くて仕方なくなってくるので出ないと体がやばいことになる。これは冬もそうで、長居しているとエアコンの効きが悪くなって来てどんどん寒くなる。月曜日の昼間なんて店内にほとんど客はいないから回転率も何もないじゃないかと思ってしまうのだけれど、いろいろと事情があるんだろう。
若い頃、あまりに正気が保てなくなりそうな時には車でよく出たものだけれど、今は雨に打たれて止まっていることが多い。たまに今日のように出たり、自分の診察と親の送り迎えに使う程度になっている。あまり動かさないでいると調子が落ちてくるように思うので、今日はお店を出てから少し無駄走りをして帰った。iPodで音楽を聴くのだけれど今日それを起動しようとしたら電池がなくなっていて、そんなに音楽を聴きたい気持ちでもなかったのでしばらく音なしで走り、途中ラジオを付けてもあまり内容は聞かずにいた。
今もまたこうして、やらないといけない作業に使うべき時間をまた別のことに長く割いている。